転ばずに自転車に乗れる! 分解練習法とは?

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200X年3月31日は,ダウン症をもった息子が自転車に乗れるようになった記念日です.小学2年生,8歳の終わり頃でした.

この日のために,息子と私は,どれだけ血のにじむような特訓を重ねたことでしょう...

というのはウソで,気が向いたときに適当に自転車で遊んでいただけです.派手に転んだこともありません.それなのに,私が乗れたのと同じ小2で乗れるようになるとは,天晴れ,息子!

でも実は,私の指導法というか練習法の勝利だと思っています.この練習法には,かなり自信をもっています.そこで,発達に遅れのあるお子さんのために公開します.もちろん,健常児やオトナにも有効です.

心構え

何の指導でもそうですが,強制は逆効果です.本人がやる気になることが,達成への最短コースです.口うるさく指導せず,お互い無理なく,楽しみながら練習しましょう.公園などの目的地に行く途中で練習するか,自転車を使ったゴッコ遊びにしてしまうと,本人は喜んで乗ります.息子の場合は,郵便屋さんゴッコ(荷台に広告紙などを入れて近所の郵便受けに入れるフリをする),出勤ゴッコ(カバンか何かを荷台に積んで,行ってきますの挨拶をして自転車で出勤するフリをする),などを本人が考え出しました.

失敗してもくじけない子ならともかく,普通は転んで痛い思いをすると,練習をいやがるようになる可能性大です.転ばない工夫として,代用品(三輪車,補助輪,キックボードなど)を活用しましょう.転ぶ心配がなければ,それに乗って勝手にひとりで外出してくれますから,それが練習になります.特に,ウチの子のようにプライドが高い場合は,後から大人が手で支えるのを極端に嫌いますので,代用品はとても有効でした.

運転技術を分解して考える

自転車の運転技術は,2つに分解することができ,それを別々に指導する方が圧倒的に達成が早いということを,新聞か何かで読んだとき,なるほど!と思いました.

1) バランスを取る

2) ペダルを漕ぐ

つまり,第1段階では,後で述べる方法で自転車をある程度のスピードで惰性走行させ,その間,漕がずにバランスだけを取る練習をする.きちんとバランスが取れるようになってから,第2段階としてペダルを漕ぐ練習をするというものです.

健常児でしかも勘のいい子なら,指導者が後から押してスピードに乗ったら手を離し,あとは自力でバランスを取りながら漕ぐという練習法で乗れるようになるでしょう.しかし,これは2つのことを同時にやる訳ですから結構難しい課題なんです.

この分解練習法は,意識的にも時間的にも,バランスとペダルをハッキリ分けることがポイントです.私は,これをさらに4つに分解することにしました.

A) 惰性走行の間,両足を開いたままバランスを取り,スピードが落ちたら着地

B) 下り坂で自然加速,または足で地面を蹴って加速したのち,ブレーキで減速,スピードが落ちたら着地

C) 惰性走行の間,片足または両足をペダルに置いてバランスを取る

D) ペダルを漕ぐ

どうですか? 普段我々は無意識でやってますが,意外とたくさん習得すべきことがありますね.Aが1で,Dが2にほぼ相当します.つまり1と2の間に,BとCを挿入したわけです.

車や自転車の運転の基本は,「走る」「曲がる」「止まる」の3つです.

「走る」とは,惰性走行と加速を指し,惰性走行 =バランスを取ること(AとC)で,加速 = ペダルを漕ぐこと(D)です.

「曲がる」は,車ならハンドルを切りますが,自転車の場合は,バランス(AとC)が全てと言っていいでしょう.ハンドルは結果的にごくわずかに切れるのですが,無意識でやるべきことなので,言葉で教えてはいけません.

「止まる」=ブレーキ(B)です.忘れられやすい項目ですが,転ばずに練習するには必須であり,早めに習得するのがよいので,Aの次に挿入しました.

バランス練習はAとCに分けました.Aは開脚,Cは閉脚です.開脚状態は,綱渡りで両手を開くのと同様にバランスが取りやすいようです.また,バランスを失っても瞬時に着地できるので安心です.

一方,ペダルに足を載せるには,ペダルの位置を探す必要があり,下を見て探したりするとバランスを失いがちです.また,着地するのにもワンテンポ遅れますので不安があります.なので,Cの初期にはペダルではなく,ペダルの前や後のフレームに足を置く姿勢でも構いません.

では,それぞれのステップを見ていきましょう.

その前に,予備練習として代用品を使った練習をします.「漕ぐ練習」と「ブレーキ練習」には,三輪車または補助輪付き自転車が使えることは容易に予想できると思います.しかし,私が強調したいのは,「バランス練習」にキックボードを利用することです.

キックボードを利用したバランス練習

自転車で最も重要なのは,言うまでもなくバランスです.このバランス練習に最適な代用品がキックボードです.息子がほとんど転ばないまま自転車に乗れるようになったのは,キックボードのおかげと思います.6歳位から最近までの約2年間,週に複数回は乗っていました.

キックボードは,踏み板の高さが5センチ程度と低いため,バランスが崩れても瞬時に着地できます.転ぶ可能性がとても低いので,その安心感のためどんどん乗ってくれます.

息子の場合,右足をボードに載せて左足で路面を蹴るわけですが,最初の頃は,蹴った後のバランスが左に大きく偏っていました.ですから,その直後に左足で再び路面を蹴らないと,左に倒れそうになります.つまり,バランスの取れていない状態で小刻みにキックを繰り返して前進していました.乗り慣れてくると,バランスの偏り具合が小さくなって,キックの間隔が次第に長くなります.また,時にはバランスが右に行ってしまうわけですが,その場合は右足でジャンプして右側に着地(して停止)するか,ハンドルを右に切ったり体全体のバランスで修正したりして持ちこたえようとします,もちろん無意識に.

この動作を無数に繰り返すことが,バランス練習になります.数ヶ月もすると,数秒間は足を着かずにバランス走行ができるようになりました.5秒,10秒,20秒と,バランス走行が長くなり,後から走って追いかけながら数を数えてやると大喜びです.

バランス走行で思い出すのは,昔懐かしバイクの「一本橋のコツ」です.私は若い頃に当時超難関だった自動二輪大型の免許を取りました.その実技テストの最難関は幅30センチ,長さ20メートル,高さ10センチの鉄板の一本橋を10秒以上かけてゆっくり渡るという課題です(歩く程度のスピードだからバランスが難しい).この課題のコツは,「できるだけ遠くの前方を見る」というものです.つい目の前の橋を見てしまうと,とたんにバランスを崩します.自転車やキックボードも同じです.息子は,良く言えば慎重,悪く言えば恐がりなので,キックボードに乗っていても,つい足元を見てしまいます.そうすると,やはりバランスを崩すんです.ですから,私はいつも後から「前見て!」と叫んでいました.

 坂道での惰性走行でバランス練習

さて,キックボードでバランスが取れるようになったら,いよいよ自転車を使ったバランス練習です.これには,何らかの方法である程度のスピードに達し,そのまま惰性走行する必要があります.スピードに達する方法には以下の3つがあります.

1.指導者が後の荷台を持って押す

2.本人が足で地面を蹴る

3.ゆるい下り坂を利用する

息子の場合には,使用頻度は2>3>1の順でしたが,私のオススメは圧倒的に3です.

あらかじめ,ある程度のスピード(小走り程度)に達すれば加速も減速もしない位の,ちょうどいい勾配の下り坂を見つけておきます.我が家の前の道路は,幸運にもピッタリの坂道でした.このような坂を利用すれば,1か2の方法で適度なスピードに達した後は,何十秒間でもバランス練習(AとC)ができるんです.実はキックボードの頃から,この坂道を利用していました.

補助輪を外すタイミング

自転車の補助輪を外したのは,キックボードに乗り始めて約1年後,数十秒間バランスを保てるようになった頃でした.乗れるようになる約10ヶ月前です.

それから3ヶ月ほどで,開脚でバランスが取れるようになりました(A).しかしそのあと,ペダルに足を載せる(C)までは,冬を挟んだせいもあり予想以上に長かったです.やはり,ペダルの場所を探すために足元を見て,そのためにバランスを崩すわけです.ここでも,私はいつも「前見て!」と叫んでいました.結局私が教えたのは,前を見ることだけだった気がします.

ペダルに足を置けるようになれば,Dの習得,つまり自転車運転の完成まではあっという間でした.ペダルを漕ぐ動作自体は,すでに補助輪を付けた状態で習得していたからです.

おわりに

実は,この練習法は最初から分かっていたものではなく,半分は新聞記事,残りは息子に教わったものです.つまり,新聞記事を参考にしながら息子に練習させる過程で,うまくいかなかったことを反省・修正していった結果がこの分解練習法というわけです.例えば,ある時期,私が練習をうるさく催促するものだから,息子は練習がいやになってしまいました.それに気付いて放っておくと,そのうち,一人で自転車を引っぱり出して,郵便屋さんゴッコをしていました.キックボードも最初から効果を知って与えたものではなく,上の子(姉)に買い与えたものを,姉への憧れのため息子が勝手に乗り出しただけです.それを見て,これはバランス練習になっていると気付かされた訳です.「子育て」というのは,実のところは「子育ち・親育てられ」なんですね.

旧サイトの記事を加筆して転載

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